発達障害
発達障害は、日常生活を送る上で、客観的に判断されにくいことから、周りに「本人の努力不足、怠け」、「親の愛情不足、育て方の問題」と誤解されることが多くあります。そのため、本人に対する指導や注意(叱責)という対応をしがちですが、生来的な困難によるものであり、そうした対応をすることで本人にとって不利な状況に追い詰められ、不登校、引きこもりなど二次的な障害が発生する場合もあります。早い時期から周囲の理解が得られ、能力を伸ばすための療育等の必要な支援や環境の調整が行われることが大切です。
広汎性発達障害
自閉症の方は見たことがないこと、やったことがないことを想像することが苦手なため、急に予定が変わったり、初めての場所に行ったりすると見通しが立たず、不安になって動けなくなったり、不安が高まると突然大声を出したりします。一方では、一度経験したことは順序や場所など細部までよく覚えており、習得したことは確実に実行できます。初めてのことをするときや初めて行く場所には、順序よく絵や写真で説明したり、本番前にリハーサルをしたりイメージや見通しが持てるようにすることが大事です。
学習障害(LD)
学習障害(LD)の方の中には字を読んで理解できるのに、書字能力に困難があるため、ノートやマスから大きくはみ出したり、ひらがな、カタカナ、漢字が、左右、上下が反転することがあります。知的な発達の遅れはないことから曲線や直線をなぞって形の構成を意識させたり、マスの中心に線を入れるなど文字の中心を意識させることが必要です。また、得意な面を探し、それを伸ばすことで「やればできる」という気持ちを育てることも大事です。
注意欠陥多動性障害(ADHD)
注意欠陥多動性障害(ADHD)の方の中には注意力や集中力が持続しないため、特に興味のないものに対して、長く注意を向けたり集中したりするのが苦手であり、周囲でちょっとした動きや物音がすると、そちらに意識が向いてしまったりします。そのため、忘れ物や約束を守れないことがあります。薬による治療が効果的です。もちろん、短時間で達成できる目標を立ててあげたり、忘れ物チェックシートなどを活用するなど、できることを少しずつ増やして自信につなげていくことも大事です。
発達障害のある人の様々な行動の困難さの背後には、「本人の特性」と周囲の「環境・状況の刺激や複雑さ」が相互に作用して、本人の行動の現れ方に影響を与えています。
したがって、ゆっくりと落ち着いた声で、一つ一つ段階を追って、分かりやすく説明することが必要です。
さらに、発達障害のある人の課題となっている行動への対応には、何がその行動への刺激・引き金となっているかを見つけ、環境・状況を整理する視点が必要となります。
その環境整備の2本柱が「場の構造化」と「視覚的構造化」です。
○ 物理的構造化①「刺激を遮断して目の前の活動に集中させる工夫」
- 刺激(目、耳、鼻から入ってくる様々な情報)を何らかの方法で遮断して、目の前の活動や知らせたい情報に注目させる工夫が有効です。
○ 物理的構造化②「活動の場所を明確にする工夫」
- 境界を明確にし、エリアを設定(作業をするエリア、食事をとるエリア、休憩するエリアなど)し、場所と活動を一対一対応にする工夫が有効です。
- 座る場所や活動する場所を明確に提示することも大切です。
- 「いつ」、「どこで」、「何をするのか」の情報を視覚的に提示します。 次の活動への切り替え、見通し(予測)をもった行動、スケジュールの変更等の支援を視覚的に順序だてておこなう工夫が有効です(タイマーなど)。
- 一日の活動を提示します。カレンダー等の活用も有効です。
各人の特性や能力、し好に応じて、視覚的タイプや情報量などを個別化します。
- 物事を順序だてて考え実行していくことや、行動の優先順位をたてて進めることに困難を感じる人が多いため、「何を」、「どれだけの量」、「いつ終わるのか」、「終わったら何があるのか」の4つの情報を視覚的に明確に伝える「ワークシステム」が有効です。
○ 視覚的指示「具体的に指示する工夫」
- 材料を見ると活動がわかるように指示します。
- カットアウトジグ(はめ込みになっている治具)を使い、やり方を指示します。
- 絵や写真で示す工夫、絵による辞書を活用します。
- 絵・文字による手順を指示します(カード、リストなど)。
- 完成品(完成後の見本)を提示します(実物、絵、写真等)。 など
- 材料を一目でわかるように分類します。迷わずにピックアップできるように仕分けします。
- 視覚的な境界を設けます(仕切り、境界線を引く、棚番号を付けるなど)。
- 容器を固定します。中身と容器を一対一対応にします。
- テンプレートにします。
- チェックシート、記入欄を明確に設けます。 など
- 色による識別、マーキング、ハイライトをつけます。
- 材料や数、量を制限します。
○ ルーティンの活用「習慣化して伝える,習慣を活用する工夫」
- 「いつもと同じは得意」、「ルーティンの保持」の特性を活用して、様々な活動、様々な流れを、いつもと同じ流れで伝えます。
「その他,感覚過敏・不器用さ等への対応」
○ 明るさを細かく調整します。
○ 下着のタグを外しておきます。裏返しに着て縫い目が直接あたらないように着ます。
○ 運動会のスタートの合図などで、ピストルでなく、シグナルや旗を使います。
○ グリップ付きの筆記用具、すべりを押さえた用紙など道具を工夫します。
○ 一般の常識にとらわれずに、服装等刺激の少ないものを身に着けることを周囲が了解します。
(例)室内や対面時でもサングラス着用、つばの広い帽子の着用、手袋、ノーネクタイ、イヤーマフ等の利用などを広く許容する。
「読字・識字の困難への対応」
○ 学習障害のなかでも読字・識字の困難がある人には、読み上げて内容を伝えることや、拡大ルーペ、拡大文字の利用等、視覚に困難のある人に対するものと同様の対応が効果的な場合もあります。
「主な対応」は、何もない状態では様々な周囲の状況や自分の状況を理解し整理することが、困難な部分を補う支援になります。構造化があることで、自ら理解し自ら行動することができるようになり、自立的な活動ができます。
「視覚的なツールを使うとこだわりが強くなる。」などの誤解もまだまだ多く聞かれますが、構造化は事前に様々な活動の見通しを伝えたり、変更を伝えたりと柔軟な理解を促すことができる支援です。反対に構造化を活用しない状況だと、自分のルールでしか動けなかったり、変更に対応できない場合もあります。構造化は発達障害のある人へのバリアフリーでもあります。上記で示した構造化や視覚的支援の考え方は、障害のある人に限らず、様々な生産現場や工事現場、オフィスの事務改善、公共の場での案内・誘導などでも応用されているユニバーサルデザインです。